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柳美里『家族シネマ』
柳美里氏による、第116回芥川賞受賞作品。




29歳の主人公、林素美が帰宅すると、家の中で映画の撮影が始まっていた。
父の暴力と母の性的なだらしなさで離婚、いったんは崩壊した林家だったが、
映画の中で「家族全員がもう一度一緒に暮らす話」が持ち上がる。

しかし、家族ひとりひとりの抱える内情はひどいものだった。
劇団に所属していた妹はアダルトビデオとCMのエキストラ以外に仕事はなく、この映画に再起を賭けている。28歳になる弟は人とのコミュニケーションがうまくとれず、未だに大学に籍を置いている。母はそんな弟を生涯養うため、父の家を売却して愛人と事業を立ち上げるつもりだ。しかし、その父もパチンコ屋のオーナーをクビになり、再び家族と一緒に暮らすことで老後の安心を得ようとしている。

一方で映画は誕生パーティー、キャンプとアットホームな雰囲気の中で進んでいく。
家族の会話はそらぞらしく噛み合わず、聞いていて薄ら寒い。
それぞれの計算に裏打ちされた同居話だったが、内情が分かった途端破談する。
林家は現実と映画の中で二度崩壊したわけだ。
ヒロインの素美は、「私は彼と折り合うことができるのだ。現実感のないひとにしか惹かれない」と家族の元を離れて彫刻家の老人の元に身を寄せようとするが、老人のアパートには既に若い女が来ている事を知り、ひとりで生きていく事を決意する。
どんな家族でも、ブラウン管の中の完璧な家族ではありえない。相性もあるし、お互いの我慢の上に生活が成り立っている。
いったんは壊れた家族が、継ぎ目を消すことのできない割れた皿のようなものならば、絵に描いたような家族の理想像に固執せず、ひとりで生きていく事の方がはるかに幸せなのだろうな、と感じた一作だった。

時々はっとさせられるような素晴らしい表現があったのでここに記す。

私たちの間に失われずに今でもしっかり残っているのは、意識が触れ合うたびにショートして憎悪と苛立ちを掻き立てることだ。子どものころは父と母の感情の被膜が破れていて、私たち兄弟に接触し感電するのだと思い込んでいたが、今こうして顔を合わせてみると五人が五人とも憎悪を抱き合っていたことが分かる。

右手には包丁の柄の感触と肉と骨の抵抗が、瞼の中には赤い色があふれている。
刺したのは男だった。

ひと筆で描かれたその絵は黒、紫、ピンク、黄緑色のグラデーションが美しくカラフルな海馬に見えなくもない。

後は、女性の尻を撮影する変態的な趣味を持つ老陶芸家の存在がアクセントとして効いていたように思う。
プロフィール

柚木みやび

Author:柚木みやび
柚木みやびの日記&エッセイ。 2006.11.9~ 
Copyright(c) Miyabi All Rights Reserved.
(プロフ画像はしいたけさんの絵本から拝借しています)


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