笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』
笙野頼子氏による、第111回芥川賞受賞作品。




夢の中でマグロと恋愛していたヒロインの沢野は、突然かかってきた誰からかも分からない電話によって、「海芝浦」という駅に向かうことになる。
その途中、故郷の三重県四日市市の風景がよみがえり、少女時代の記憶や家族のことが急速に思い出され、幼い頃食べていたチョコレートの味覚と共に、現実と溶け合ってゆく。

「海芝浦」はホームの片側が海、もう片側が東芝工場の通用口しかないという変わった駅である。線路と鉄パイプと変圧器と高圧線。
コンビナートのある四日市市の風景に同調してゆくさまはとても自然だった。

描写も面白い。

頭の中では海芝浦行きの電車が半分崩れて糸を引いていた。その窓から納豆の豆のように乗客の半分が、あああああ、と目の玉を寄せて海に帰りつつあった。
彼らの多くは、頭の方からオウム貝とか三葉虫のような、古代の海の生物に変わり始めていた…

気がつくとまるで書き割りのようなわざとらしい、ぴかぴか光る一枚の布のような海を私は見ていた。…頭の中に幽霊のような手がふっと浮かんで、その芝を一本だけぴっと引っ張った。…芝と一緒に海も縫い目を引っ張られた布のようにめくれ上がる。…衣装だけが歌舞伎のように色鮮やかな、腰蓑もつけたウラシマタロウが、つつーっ、と海がめくれ上がった後の空白の中に滑り出て来た。

……波光に波騒ぎに波輝く、栞やらり、脂月離れる、ありますか、ゆりにみのりますか……。
……いいえ、まみえぬばりのぼれば、梨の花の星わたるりげるに、るぇんげるねの明かり、いいえいいえ……。

(古典好きの人間が現代の感性で書いた恋愛小説という夢の設定)

独特の観察眼と、流れてゆくような感覚が心地よかったが、ラストシーンに盛り上がりがあればもっと良かったように思う。
プロフィール

柚木みやび

Author:柚木みやび
柚木みやびの日記&エッセイ。 2006.11.9~ 
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(プロフ画像はしいたけさんの絵本から拝借しています)


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